著作紹介④眼内レンズ強膜内固定(教科書)
白内障手術は簡単な手術、というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか?
確かに最近では日帰り手術が当たり前ですし、短時間で痛みもなく、翌日からよく見えるようになる、ことが多い手術になっております。
99%以上の患者さんはそのような手術で済みます。
普通の白内障手術とは水晶体の入っている袋(水晶体嚢)を残して、中身を吸い出して、水晶体嚢に眼内レンズを入れて固定する、嚢内固定という方法です。
この方法はシンプルで、目のもともとの組織を生かして固定するため、目の負担が少なく、先人の眼科医が試行錯誤の上たどり着いた究極の方法といえます。
術者としては、簡単なように手術ができるようになったありがたみを感じます。
しかし1%以下の患者さんですが、チン小帯という水晶体を支えている糸状の組織が非常に弱い場合があります。
目を過去に強くぶつけたことがある方(外傷例)、目にチリのような物質が付着している方(落屑症候群)、強度近視、浅前房、ぶどう膜炎などなど、このチン小帯が弱くなる原因はいろいろとあります。
大抵はこれらの要素があったとしても、チン小帯の強度がある程度残っていれば普通の手術を丁寧に行ったり、あるいは水晶体嚢拡張リングなど、ちょっとひと手間加えることで十分対応可能です。
ところが、
チン小帯が半分以上切れてしまっているような場合は水晶体嚢が目の中でブラブラしてしまっている状態になるので、眼内レンズを水晶体嚢に入れて固定することができません。
白内障の術前に既に水晶体が揺れているような方や、ずっと前に白内障手術を受けて眼内レンズが入っているけど、そのレンズがずれて眼底に落ちかかっているような場合もあります。
このような場合には水晶体嚢ごと取り除いてしまって眼内レンズを直接目の中に固定する必要があります。
従来は糸を眼内レンズの足にくくりつけ、もう一方を眼球の壁である強膜組織に縫い付ける手術(眼内レンズ縫着術)で固定しておりました。
この手術も良い方法でしたし、年々小さな切開で縫いつけられるように進化してきていました。
しかし糸が経年劣化で切れてしまう、手術時間がやや長くかかるなどの難点がありました。
そこで眼内レンズの足を直接眼球の強膜組織に埋め込んでしまう術式(強膜内固定術)が開発されました。
私自身も、この強膜内固定手術を国内で行っている術者が少なかった時期から取り組んでおりました。
最初は試行錯誤の部分もあり大変な部分もありましたが、非常に良い手術であると確信しておりました。
その後、世界中で爆発的に広まり、いまでは一つのスタンダードになりました。
この手術を覚えたいという眼科医のニーズは多く、私も大学病院等で指導する機会も多かったため、今回この手術の教科書の執筆依頼を頂きました。
思い入れのある術式であり、イラストや手術動画の編集など出版社と何度もやり取りをして完成しました。
読んだ先生がこの手術をする際の参考になれば嬉しいなと思っています。