院長ブログ
著作紹介③緑内障と網膜前膜(2022.05.15更新) "眼科手術"という雑誌に2021年に執筆しました。 緑内障に関しては、緑内障の権威である島根大学の谷戸教授に内容を確認頂き、共著で執筆しました。 緑内障は視神経が傷むことで視野が欠ける病気です。眼圧が下げることで神経が傷みにくくなることが知られています。 網膜前膜は網膜の上に膜が張る病気で、網膜が網膜前膜に引っ張られることで歪んでしまい、見え方も歪んでしまう病気です。 ある程度の年齢になるとこの2つの病気、緑内障と網膜前膜を両方持っておられる患者さんが一定数おられます。 理由として、いずれも加齢とともになりやすくなる病気だからです。 緑内障は視神経へのダメージが蓄積されて起きるので、高齢なほど多くなります。 網膜前膜は網膜面にくっついていた硝子体というゼリー状の組織が網膜から外れる(硝子体剥離)ときに網膜面にこびりついて残り、それが収縮することで発症すると考えられています。 硝子体剥離は中年以降、加齢とともに起こってきますので、網膜前膜も加齢とともになりやすくなります。 緑内障の治療は眼圧を下げる点眼薬による治療が基本ですが、時には眼圧を下げる手術が必要なこともあります。 網膜前膜の治療は硝子体手術です。50歳以降の方での硝子体手術では一般に白内障手術を同時に行います。 手術をするかどうかは膜の程度、症状の程度によります。 手術で網膜前膜は取ることができますが、その網膜前膜のすぐ下は網膜神経線維層ですので、網膜前膜をとることで神経線維への影響が心配されます。 神経線維が健常な、緑内障ではない方であれば、問題はほとんど無いと考えられます。 神経線維が弱くなっている緑内障の方では、本当に膜をとるべきなのか、悩ましい問題です。 膜を取らなければ歪んだ見え方は良くなりませんが取る手術をして神経線維が傷んでしまったら視野が悪くなるかもしれません。 ここに臨床的なジレンマがあります。 以下の点が悩ましいポイントです。 実はこのような点にはわかっていないこともありますし、過去の研究である程度わかっている点もあります。 今回の原稿では現状でわかっていることを手がかりに、わからない点については多少推測も交えつつ、論考し、執筆しました。 色々と考えましたが、結局の所、多くの場合、ケースバイケース、としかいいようのない部分があります。 患者さんごとに異なる病状を見極めて判断するしかないかな、と思っています。